コロナ過実家へ 生涯女性
生涯女性としての尊厳
その日、午後に実家へ帰省した。
コロナ過で、少々気が引けたのだが。
久しぶりの実家だ。
前日の天気予報は雨だったが、なぜか太陽がご機嫌のようだ。
帰省の目的は、父の自動車運転免許証を警察署へ返納するためだ。
実は、自動車運転免許証を返納するように説得をはじめてら、2年ほど経っていた。
それは、本人は、まだまだ自分は大丈夫だと思っているわけで、そこに、高齢だからだの危険だからだの言ってしまうと、当然にぶつかってしまう。
父は、特に頑固な人だ。
そんな理由で、返納する今日までに長い年月を要してしまった。
近くの警察署へ父を連れて行き、返納の意思確認が行われる。
その後、書類を提出し運転免許自主返納カードを頂いた。
無事に返納を済ませ、帰宅の途についた。
帰ると、母が見当たらない。
母は、父より1歳年下だ。
お風呂場にいたようだ。
寒い中で、白髪を染めていたのだ。
私は、言葉が喉まで出かかっていた。
「いい年齢なのだから、寒い中、もう白髪を染めなくてもいいのではないか?風邪をひいてしまうと大変だから。」と、、、
しかし、一瞬、ためらった。
それは、年齢に係わりなく「奇麗にしていたい」という気持ちを持ち続けていることに、驚きと嬉しさと、自分は高齢になった時に、その気持ちを持っていられるのだろうか、という思いが複雑に交錯していたからだ。
そして、その瞬間、母を一人の女性として、もっと尊重しなければいけないと気づいた。
当たり前のことなのに、その当たり前のことを忘れていたのだ。
母に対して、申し訳なく感じた。
これからは、生涯女性の尊厳に思いやりを持って接するようにしたいと思う。
80歳を過ぎた母が、これからも奇麗になりたいという気持ちを忘れないでいてくれることを願って。